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社内マニュアルの作成が、いつまでも終わらない理由

「作っておいて」と頼んだのは、半年前です。

まだできていません。催促もしづらい。頼んだ相手は、その仕事をいちばんよく知っている人で、たいてい、いちばん忙しい人でもあるからです。

その人しかできない状態をなくすために作るものを、その人しかできない作業として頼んでいます。目的と手段が、逆を向いています。

私は製造業で12年、100人規模の会社の代表を務めました。当時、いまのような道具はありません。

先に、その人に書かせずに済ませる方法から片づけます。

社内マニュアルの作成が進まないのは、なぜですか

忙しいからではありません。書くという作業そのものが、その人にしかできない形をしているからです。

手順を書くには、書く前に決めることがあります。何から書き始めるか。どこまで細かく書くか。例外をどこに入れるか。この三つは、その仕事を分かっていないと決められません。だから「代わりに誰かが書いておく」ができない。指示を出した側が手伝おうとしても、手伝える工程がありません。

そのうえ、書き上がったものを直せるのも本人だけになります。書いた人が選んだ粒度で書かれているので、別の人が読んでも、抜けているのか省略したのかが判断できません。

結果として、その人しかできない状態をなくすために始めた作業が、その人しかできない作業として積み上がります。半年経っても出てこないのは、途中で止まっているのではなく、そもそも一人しか進められない形になっているからです。

自社でいちばん詳しい人がやっている作業を、いま言葉にできますか。

このまま何も変えなければ、どうなりますか

半年後も、同じ状態のままです。

困るのは、渡すものが無いことではありません。無いまま人が入ってくることです。新しい人は、聞きながら覚えます。聞かれる相手は、マニュアルを書けなかったのと同じ人です。教える時間が、書く時間の代わりに増えていきます。

しかも、教えた内容は残りません。次に人が入れば、同じ説明をもう一度します。その人が説明できる相手の数には上限があるので、採用のペースはそこで頭打ちになります。人を増やしたくても、受け入れる側が先に詰まります。

いちばん重いのは、その人が辞めるときです。辞めると分かってから慌てて書いてもらうことになりますが、引き継ぎの期間はいちばん書く時間が無い時期でもあります。

自社ではどこが先に詰まっているか。いくつかの質問に答えると見当がつきます。

複数人で分担して作ればいいのではありませんか

分担すると、読めなくなります。

章ごとに書き方が変わるからです。ある人は一行で済ませ、別の人は画面の説明まで書く。読む側は、どこまで信じてよいかが分からなくなります。だから手順書の作り方を解説している記事の多くが、専任の担当者を一人に決めることを勧めています。書くという形を取る限り、それは正しい助言です。そして、その一人に寄せた時点で、元の問題に戻ります。

人を厚くするほうも試したことがあります。当時、一人が辞めても回るように、その領域を知っている人を複数作っていました。でもそれはすごく大変でした。うまくいった方法として紹介できるほど、きれいな話ではありません。渡した相手が辞めれば、渡したものも一緒に出ていきます。

そもそもマニュアルで回る仕事かどうかという話は、なぜ他社のマニュアルは機能して、うちだけうまくいかないのかに書きました。この記事は、その先の話です。作ると決めた後、どう作るか。

何を使えばいいですか。新しい道具は要りますか

新しく買うものはありません。録音できるものが一つあれば足ります。

スマホでも、パソコンの録音でも、オンライン会議の記録でも構いません。文字起こしは、いま使っている端末の機能でたいてい間に合います。専用のマニュアル作成ソフトを先に選ぶと、その様式に合わせて書き直す作業が最初に来ます。それは、書いてもらう形に戻ったのと同じです。

文字起こしが出ても、それだけでは読める形になりません。会議の記録で同じことが起きる話は、会議の文字起こしは出ているのに、議事録にならないに書きました。

生成AIの置き場所は、手順を考えさせる側ではありません。話した内容を手順の形に直す側です。何をどの順でやっているかを決めるのは現場で、AIがやるのは並べ替えと言い換えだけです。

どの製品を使うかは、この段階では決まりません。話を録るところまでは手元の道具で済み、読ませる先はその後で選べます。

社内マニュアルは、どう作ると一人に寄らないのですか

書いてもらうのをやめます。代わりに、その仕事をしている人に話してもらいます。

順番は五つです。

一つ目。書く人を決めるのをやめます。

最初に決めるのは、誰が書くかではありません。どの作業から手を付けるかです。一つ選んで、その作業をしている人に「普段どうやっているか、順番に話してください」と頼みます。資料は要りません。手を止めて机に向かう必要もありません。

二つ目。話したものを、AIが手順の形に直します。

出てくるのは、番号の付いた手順と、途中で出てきた注意点です。話し言葉は前後します。「あ、その前に」「これは月末だけ」が混ざります。順番の入れ替えと、言葉の統一は機械がやります。話す側が気をつけて話す必要はありません。

三つ目。同じ作業を、別の人にも話してもらいます。

ここが、書いてもらう形との違いです。書くと一人に寄ります。文体と粒度を揃えるために、誰か一人が全部書くことになる。二人で分けて書くと、章ごとに書き方が変わって読めなくなります。話すなら分けられます。揃えるのは機械の仕事だからです。

四つ目。出てきた手順を、人が直します。

ここは省けません。抜けているところと、順番が違うところを見るのは、その仕事を知っている人です。

ただし、直す人は話した人でなくて構いません。自分の作業が手順になって戻ってくれば、読んだ人は違いに気づきます。書いた本人にしか直せない、という状態になりません。

五つ目。一度に全部やりません。

一つの作業でやってみて、使えるかを見ます。話す側の負担は小さくても、全作業を一度に進めると声をかける相手が増え、今度は頼む側で詰まります。合わなければ、そこで止められます。

話す時間も、時間です

取るものは取ります。五分でも、現場の時間です。

ただ、書く時間と話す時間は、量ではなく形が違います。

書いてもらう話してもらう
要る時間の形まとまった時間細切れでよい
事前に要るもの構成。何から書くかを決めてから始める要らない。順番は後で直る
間違いの扱い残るので、確認してから書くその場で言い直せる
場所机に向かう現場のまま
終わりの見え方どこまで書けば終わりか、自分で決める聞かれたことに答えれば終わる
人数一人に寄る分けられる

書くのが進まないのは、意欲の問題ではありません。書き始める前に、構成を決める必要があるからです。何から書くかが決まらないうちは、まとまった時間が空いても手が動きません。話すほうには、その工程がありません。

五分の細切れは、まとまった二時間の二十四分の一ではありません。別の種類の時間です。

そして、いちばん下の行がこの記事の答えです。一人に書かせるという矛盾が解けるのは、話す形なら複数人から取れるからです。

断っておくと、これを自分の会社で確かめたわけではありません。私が経営していた頃に、この道具はありませんでした。手は動くのに言葉にならない仕事は、この形では出てきません。

この方法でも出てこないものは何ですか

三つあります。先に知っておくと、出てきた手順の読み方を間違えません。

一つ目は、話しても言葉にならない仕事です。手を動かしながら、その日の状態を見て細かく調整している作業は、本人も何を見て決めているかを説明できません。ここは、手順に直そうとしても出てきません。どういう仕事がそれに当たるかは、なぜ他社のマニュアルは機能して、うちだけうまくいかないのかに書きました。

二つ目は、出てくるのがその人のやり方であって、正しいやり方ではないことです。二人に話してもらうと、たいてい食い違います。どちらを会社のやり方にするかは、機械には決められません。食い違いが出たこと自体は、悪いことではありません。今まで見えていなかっただけです。

三つ目は、手順ができても読まれるかは別だという点です。作る問題と、読まれる問題は別に解く必要があります。読ませて覚えさせる工程を前提にしない置き方は、生成AIの社内ルール、作った後に何が起きるかに書きました。

会社で使う方へ。どの作業から始めるか、話してもらった内容をどう読むかは資料にまとめてあります。会社で手順を残す方はこちら。

ひとりで仕事をしている方は、話す相手が自分だけになるので、始め方が変わります。ひとりで仕事をしている方はこちら。

結局、何をAIに任せて、何を人が決めるのですか

AIに任せるのは、話した内容を手順の形に直すところまでです。どのやり方を会社の基準にするかを決めるのは人です。

任せられるのは、前後した話を順番に並べ直し、人によって違う言い方を揃え、注意点を該当する手順の横に付ける作業です。ここは機械のほうが速く、しかも人がやると、また誰か一人に寄ります。

人が決めるのは、二人の手順が食い違ったときにどちらを採るか、例外をどこまで書くか、書かないと決めたことは何かです。ここは、その仕事を見てきた経験がないと決まりません。同じ作業でも、扱う量や相手によって正解が変わります。その違いは、話の中には出てきません。

大変なのは、やり方を一つに決める判断のほうです。二人のうち一方を選ぶ場面が必ず来ます。難しくないのは、いま何をやっているかを集めることで、そこは今日から始められます。別のことを言っているので、矛盾はしていません。

頼んでから半年待つ、というところから始めなくて構いません。見るのは、その作業を五分話してもらえる相手がいるかどうかだけです。

よくある疑問

Q. 社内マニュアルは何から作ればいいですか

様式を選ぶところからではありません。どの作業から手を付けるかを一つ決めて、それをやっている人に話してもらうところからです。一つ試してから広げてください。

Q. テンプレートを使えば早く作れますか

様式は埋める場所を教えてくれますが、何を書くかは教えてくれません。様式より先に、誰に話してもらうかを決めてください。手順の形にするのは後からできます。

Q. 業務標準化とマニュアル作成は違うのですか

標準化はやり方を一つに決めることで、マニュアルはそれを書き残したものです。順番としては決めるほうが先ですが、話してもらうと、決める前に何通りあるかが先に見えます。

Q. 話すのが苦手な人でもできますか

説明がうまい必要はありません。前後しても、言い直しても、後から直ります。うまく話せないから書けない、という人ほどこの形が向きます。

この記事は、製造業で12年間・100人規模の会社を経営した実体験をもとに書いています。AI導入の実績を報告するものではありません。

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