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ChatGPTの文章をそのまま使う部下に、何を確認させるか|「そのまま出すな」の次に渡すもの

「ルールがないからって使っていいの。書類とか見せる人に失礼でしょ」
部下がAIを使って書類を作っているのを見つけて、そう言った。言ったことは間違っていません。確認せずに出されたら困ります。
それで直るなら、この話は終わりです。たぶん直りません。注意は出来事で、工程ではないからです。何を見れば出していいかを渡していないと、部下が受け取るのは「使うな」のほうになります。
製造業で12年、100人規模の会社を経営していました。
まず、なぜ注意だけでは足りないのかから書きます。
「ChatGPTをそのまま使うな」と一度言えば、次からは気をつけるのではありませんか
気をつけます。ただし、何に気をつければいいかが分からないままです。
言われた側から見ると、渡されたのは「やめろ」に近い言葉です。どこまでなら使っていいのか、何を直せば出していいのかは、その場では出てきません。
すると、選べる道が二つしか残りません。隠れて使うか、使うのをやめるか。
隠れて使うほうを選んだ場合、確認は前より雑になります。見つかると困るので、相談もしなくなります。使うのをやめたほうを選んだ場合、書類を作る時間は元に戻ります。
どちらを選んでも、確認の工程はできていません。 だから次に同じことが起きます。そのとき、また同じ注意をすることになります。
生成AIの文章は、何を確認させればいいのですか
書かれています。ただし、片側だけです。
さきほどの新卒の投稿には、回答が五件付いていました。並べて読むと、方向はだいたい揃っています。出てきたものをそのまま信じるな。検証する時間を見込め。会社の情報を入れるときは気をつけろ。どこまで使っていいかは社内の担当部署に聞いたほうが早い。
どれも間違っていません。ただし、「何を見れば出していいか」を書いたものは一件もありませんでした。 一番近いものでも、聞く相手を指しているだけです。確認する対象そのものは出てきません。
助言をまとめた記事のほうも読みました。こちらは具体的です。固有名詞は元の資料と突き合わせる。数字は全部疑う。日付と最新性を確かめる。項目を二十五まで並べたものもありますし、承認して、差し戻して、記録に残すところまで設計したものもあります。
どれも項目を増やす方向です。 丁寧に作られていますが、注意した翌日に部下へ一つ渡すものにはなりません。
ここまでで、噛み合っていない感じがあるはずです。原因は、「そのまま出すな」という一言が、二つの別々のことを指しているところにあります。
見積書で考えると分かりやすくなります。
一つ目は、事実が合っているかどうかです。 単価が表と合っているか。数量と金額の計算が合っているか。日付と宛名が正しいか。ここは部下が一人で確認できます。 元の資料と突き合わせれば終わります。回答も、チェックの項目も、全部この層のことを言っています。
二つ目は、文脈に合っているかどうかです。 この取引先には、前回こちらの都合で納期を遅らせた負い目がある。だから今回は端数を丸めない。あの担当者は社内で通すときに必ず内訳を聞かれるので、一式でまとめずに分けて書く。
二つ目は、部下には確認しようがありません。 資料のどこにも書かれていないからです。知っているのは、その取引を見てきた側だけです。
冒頭の上司が「書類とか見せる人に失礼でしょ」と言ったとき、指していたのはこちらです。見せる相手がいて、その人にどう見えるかを気にしている。道具の話をしていません。
ここが、渡せるのに渡されていない場所です。 確認の観点のほうは、探せばどこにでも書いてあります。部下が自分で見つけられます。前提のほうは、どこにも書かれていません。
説明の手間を惜しんでいるのとは違います。渡せるものだと気づいていないだけです。 自分が毎回それを見て判断していることに、言われるまで気づきません。
これは、うちの会社の話ではありませんよね
ここまでは他社の話です。自社に移すかどうかを決めるために、一つだけ試してください。
直近で自分が「これは出していい」と判断した書類を、一枚思い出してください。そのとき何を見て、出していいと決めましたか。それを、いま言葉にできますか。
出てこないなら、それは手を抜いたからではありません。見ているものが多すぎて、しかも一度も外に出したことがないからです。
言葉にならないものは、注意にも入りません。だから「そのまま出すな」という短い形になります。
自社のどこが先に詰まっているかは、いくつかの質問に答えると見当がつきます。
このまま置いておくと、どうなりますか
今日は何も起きません。部下は気まずそうにしていて、書類は前より遅く出てきます。それだけです。
半年経つと、確認が自分に戻ってきます。部下は判断を避けるようになるので、迷ったものが全部こちらに回ります。見る量は減りません。増えます。
困るのは、増えることではありません。その半年のあいだに、渡せたはずの前提が一つも外に出ていないことです。
私は経営していた12年のあいだ、人を育てることの重要性は分かっていましたし、指示もしていました。それでも進みませんでした。現場は目の前の仕事で手一杯で、育てる余裕がなかったからです。責める気にはなりませんでした。指示は出ている。動かない。その形をずっと見ていました。
一年後、同じ書類で同じことを言います。そのとき部下は入れ替わっているかもしれません。入れ替わっても、渡すものは同じです。
社内ルールを作ればいいのではありませんか
思いつく手は三つあるはずです。先に見ておきます。どれも間違いではなく、効く条件が決まっています。
社内ルールを作る、が一つ目です。効くのは、運用する人が決まっている場合です。決まっていないと、文書だけができて誰も開きません。ルールを作った後に何が起きるかは、生成AIの社内ルール、作った後に何が起きるかに書きました。作るなとは言っていません。作る前に、運用する人を決めてください。
確認の項目を一覧にして配る、が二つ目です。効くのは、項目を絞れている場合です。二十五項目を渡されると、確認そのものが後回しになります。しかも一覧に書けるのは事実の層だけで、文脈の層は会社ごと相手ごとに違うので、一覧の形になりません。
自分が全部見る、が三つ目です。効くのは、見る量が増えない場合です。部下が使うほど書類は速く出てきます。速くなったぶんが、こちらに溜まります。
そもそも社内で何に使われているかを把握していない段階なら、社内でAIが何に使われているか、答えられますかのほうが先です。知るのが先で、渡すのはその次です。
部下には、確認のために何を渡せばいいですか
次にその書類を出すとき、何を見て判断するのかを、一つだけ決めて伝えます。
一つに絞る理由があります。項目を増やすほど、確認そのものが後回しになるからです。 一つなら、次の一枚から実際に通ります。通ってから足せば、二つ目は工程の上に乗ります。
選ぶのは、自分しか知らないほうです。単価が表と合っているかは部下が確認できます。渡す価値があるのは「この取引先には前回の負い目があるから端数を丸めない」のような、資料に書かれていない前提のほうです。
ここでAIに入ってもらいます。材料として置くのは、もうあるものです。 過去に出した見積書、そのときのやり取り、差し戻して直した跡。基幹システムを入れ替える前提ではありません。いま使っているシステム、Excel、メール、PDFが、そのまま材料になります。
AIが返すのは、似た書類が来たときに、前はどの取引先で、何を見て、どこを直したのかです。判断そのものではありません。判断に使った材料と、その理由までです。
人がやるのは、見る場所を決めることです。出てきた事例のどれを基準として残すかを決めるのは、その仕事を見てきた人にしかできません。
こうすると、四つ目のことが起きます。次に同じ書類を作る人が、同じ質問をしなくて済みます。 決めた一つは人の外に置かれているので、部下が入れ替わっても残ります。注意は残りません。言った本人と、言われた本人の間にしかないからです。
その場にいた人しか知らないことが、仕事のあちこちにあります。 見積書だけではありません。断り方、値引きの線、先方の決裁の順番。どれも誰かの頭の中にあって、書類には出てきません。一つ外に出すと、その隣にあるものも出しやすくなります。
大変なのは、自分が何を見て判断しているかを言葉にするところです。長くやってきた人ほど、そこは言葉になっていません。難しくないのは、一つ選んで伝えることのほうです。別のことについて言っているので、矛盾はしていません。
よくある疑問
Q. 部下に「使うな」と言ったつもりはないのですが、なぜそう伝わるのですか
使うなと言っていなくても、どこまでなら出していいかを渡していなければ、受け取る側には線が引けません。線が引けないときに安全なのは、使わないか、隠れて使うかのどちらかです。言葉ではなく、渡したものの量で決まります。
Q. 見る場所は、どうやって一つに決めるのですか
直近で差し戻した書類を思い出して、そのとき何が原因だったかを見てください。二度同じ理由で差し戻していれば、そこが一つ目です。思い当たらなければ、いちばん金額の大きい取引先の書類で、自分が毎回必ず見ている場所にしてください。
Q. 生成AIのチェックリストを配るのでは、いけないのですか
いけなくはありませんが、一覧に書けるのは事実の層だけです。単価や日付のように誰でも確認できるものは一覧になりますが、取引先ごとの事情は会社ごとに違うので一覧の形をしていません。配るなら、一覧とは別に一つ伝えてください。
Q. 自分がAIを使えなくても、部下の使い方を判断できますか
できます。判断しているのは道具の使い方ではなく、出てきた書類が出していいものかどうかです。そこは道具が変わっても同じで、長くその仕事を見てきた人のほうが速く分かります。
この記事は、製造業で12年間・100人規模の会社を経営した実体験と、働いている人が公開の場に書いた相談、および公開されている記事をもとに書いています。
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