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社内でAIが何に使われているか、答えられますか|シャドーAIを禁止の前に把握する

「何でルールもないのに怒られなきゃいけないんでしょうか」

新卒で入った社員が、そう書いていました。上司に「なんでchatgpt使ってるの」と言われたそうです。その会社に決まりはありません。

禁止した会社の社長は、もう使われていないと考えます。禁止していない会社の社長は、うちは関係ないと考えます。どちらも違います。分かれ目は禁止したかどうかではなく、会社が何に使われているかを知っているかどうかです。

製造業で12年、100人規模の会社を経営していました。当時AIはありません。

社内で実際に何が起きているかから書きます。

社員のAI利用は、禁止で防げるのではありませんか

違います。禁止した会社も、していない会社も、社内で何が起きているかは同じように見えていません。

中小企業でAIの使用を禁止・制限している会社は1.4%です。いちばん多いのは「会社での導入はなく、使用は個人の判断に任せる」で64.9%でした(商工中金「中小企業の生成AIの利用にかかる調査」、2026年3月公表)。

この調査が言っているのは、会社としての導入もルールも無い会社が6割を超える、というところまでです。使われているかどうか、何に使われているかは、この数字からは分かりません。

分からないという状態が、そのまま答えになっています。

社員が会社に言わずにAIを使うと、社内では何が起きているのですか

禁止した会社と、していない会社の両方を見ます。どちらも、働いている人が外に書き込んだものです。

禁止した会社のほうから。ある社員の勤め先が、情報漏洩と著作権侵害のリスクを理由に、社内でのChatGPTの使用を禁止しました。判断として間違っていません。その社員が使っていたのは、表計算の自動処理を作ること、メールの文面を書くこと、プログラミングの学習でした。

禁止されたあと、その社員は「代わりに使える無料のものはないか」と外に書き込みました。付いた回答は3つとも、別のサービスを使えばいいという回避策でした。1つだけ「そのうち会社はそれも禁止するだろう」と書かれていました。

会社は、この質問が出ていることも、回答が付いていることも知りません。

禁止していない会社のほうは、三人分あります。

一人目はシステムエンジニアです。仕事が速い理由を職場で聞かれ、面倒な部分をAIに作らせて、出てきたものを検証して手直ししている、と説明したそうです。返ってきたのは「邪道」「楽をするな」でした。本人は「AI禁止と明言されてもいない」と書いています。

二人目が、冒頭の新卒です。上司の言い分は「ルールがないからって使っていいの。書類とか見せる人に失礼でしょ」でした。この言い分には筋が通っています。書類には見せる相手がいて、中身を説明できない人が出すべきではありません。

三人目は、上司の側を見ている部下です。その上司は社内メールの回答、作業の一覧表、教育の資料、報告書、業務の方針を、AIが出した文章をそのまま貼って出しています。中身を確かめていないので、事実でないことも混じります。直す作業は部下に回ってきます。同僚は誰も異議を唱えません。

この三件で、決着が付いているものは一つもありません。決めているのは、その場にいた誰か一人で、会社ではありません。

禁止した会社では、社員が社外に回避策を聞きに行っています。禁止していない会社では、使っていいかどうかを、その場にいた上司がその都度決めています。どちらも、会社は何が起きているかを知りません。

会社が把握していないところで、社員が自分のアカウントのAIを仕事に使っている状態を、ここでは見えないAI利用と呼びます。一般には「シャドーAI」と呼ばれているものです。禁止した会社だけで起きるものではなく、使用を個人の判断に任せている会社でも同じ状態になります。

これは、うちの会社の話ではありませんよね

ここまでは他人の会社の話で、あなたの会社の話ではありません。移すかどうかを決めるために、一つだけ思い出してください。

先月、社内でいちばん早く仕上がった書類は何でしたか。それを作ったのは誰で、その作業は、いま誰が持っていますか。

思い出せないこと自体が答えになります。見積書や報告書を担当者が一人で仕上げている会社では、作った本人以外に、どう作ったかを知っている人がいません。

三人目の話をもう一度見てください。あの上司は、三年前に中途採用で入った有識者枠の人です。周りは誰も止めていません。止めないのは遠慮ではなく、止める基準が社内に無いからです。

自社のどこが先に詰まっているかは、いくつかの質問に答えると見当がつきます。

このままシャドーAIを置いておくと、どんなリスクがありますか

今日も誰かが、自分のアカウントで同じ作業を早く終わらせています。それ自体は困ったことではありません。

半年経つと、その手順が固まります。何を入れて、どこを直して、どこは使わないと判断したか。うまくいかなかったときにどう聞き直したか。全部その人の中にあります。会社の記録に残るのは、出来上がった書類だけです。

その人が辞めます。残るのは成果物で、どう作ったかは残りません。同じ書類をもう一度作れる人は、社内にいません。

辞めると分かってから聞いても遅いのは、そのときには手順ではなく引き継ぎ書が出てくるからです。書ける部分しか書かれません。聞いておけばよかったと気づくのは、たいてい次に同じ書類が必要になった日です。

法人向けのChatGPTを導入すれば、シャドーAIの対策は済むのではありませんか

三つの代替案が浮かぶはずです。先に見ておきます。どれも間違いではなく、効く条件が決まっています。

うちは禁止していないから大丈夫、というのが一つ目です。これが効くのは、何に使われているかを会社が知っている場合です。任せていることと、把握していることは別です。先ほどの三人は、どれも禁止のない会社で起きています。

法人向けのプランを契約して配る、が二つ目です。効くのは、何に使っているかが分かっている場合です。用途が分からないまま配ると、配ったアカウントは使われず、個人のアカウントのほうが残ります。先に決めるのは、どの作業に使わせるかです。

監視の仕組みを入れて検知する、が三つ目です。効くのは、会社の端末と回線の中で使われている場合です。個人のスマートフォンは、会社の網の外にあります。

ルールを作ること自体をやめる話ではありません。何を入れてはいけないかをどう決めるかは、生成AIの社内ルールの作り方に書きました。

禁止を解く前に、何をすればいいのですか

聞き方を変えます。使っているかどうかを聞くのをやめます。

聞いても返ってこないのには理由が二つあって、どちらも会社の側が作っています。禁止した会社では、答えることが処分につながります。禁止していない会社でも返りません。先ほどのシステムエンジニアは、聞かれて説明して「邪道」と言われています。そういう前例が社内にある以上、次からは黙ります。

つまり「使っていますか」という形の質問は、設計として失敗しています。正直に答えた人が損をする形になっているからです。

聞く対象を、道具から作業に移します。どの作業が前より早く終わるようになったか。その作業は誰が持っているか。道具の名前を一度も出さずに聞けて、答えても誰も不利になりません。業務の話なので、会社として聞く筋も通ります。

ここで手に入るものが、この記事でいちばん言いたいところです。社員がAIを使ったのは、その作業が詰まっていたからです。だから社員が何に使っているかは、そのまま社内のどこが詰まっているかの地図になっています。会社が本当に知りたかったのは、どのサービスを使っているかではありません。どの作業が詰まっていたか、のほうでした。

知らないまま置くと、もう一つ起きることがあります。個人のアカウントで回っている手順は、その社員の中にしかありません。会社が長年嘆いてきた属人化を、いま一つ新しく作っていることになります。

当時の私は、自分の目の届く範囲でしか仕事を回していませんでした。任せて失敗したらどうするのか、という怖さがあったからです。属人化を嘆きながら、属人化を選んでいたのは自分でした。禁止という形で同じことをしていないかは、確かめる価値があります。

シャドーAIの対策は、何から始めればいいですか

地図が出てから、禁止を解くかどうかを決めます。順番がこうなっているので、禁止の是非を決めないまま先へ進めます。

置く材料は、もうあるものです。メール、見積もり、議事録、そのとき交わした短いやり取り。新しく作るものではありません。基幹システムを入れ替える前提でもなく、いま使っているシステム、Excel、メール、PDFがそのまま材料になります。

それをAIに読ませておくと、似た場面が来たときに、前はどう決めたのか、何を見てそう決めたのかを返してきます。判断の基準と、その理由までが材料として出てきます。決めるのは人です。AIが出すのは、そこまでです。

会社の側で変わるのは、手順が一人の中から出ることです。次に同じ作業をする人が、前の事例を引けるようになります。熟練した人の判断に頼ったまま、その人がいないと止まる、という形から一段離れます。

大変なのは、いま誰が何に使っているかを聞き出すところです。禁止したあとほど答えが返りません。難しくないのは、聞き出したものを記録の側に置くほうで、そこは今日ある記録から始められます。別のことを言っているので、矛盾はしていません。

断っておくと、これを自分の会社で確かめたわけではありません。記録がほとんど残っていない仕事では、同じようにはいきません。

まず、先月いちばん早く仕上がった書類から聞いてみてください。自社のどこが詰まっているかは、いくつかの質問で見当がつきます。

よくある疑問

Q. うちは禁止していないのですが、それでも確かめる必要がありますか

あります。禁止していないことと、何に使われているかを知っていることは別です。禁止のない会社では、使っていいかどうかを、その場にいた上司がその都度決めています。決めた内容はどこにも残りません。

Q. 何に使っているかは、どうやって聞けばいいですか

使っているかどうかを聞くと答えは返りません。答えることが叱られることにつながるからです。聞くのは業務の側です。どの作業が前より早く終わるようになったか、その作業は誰が持っているか。道具の名前を聞かずに、作業の変化を聞きます。

Q. 会社で法人向けのアカウントを契約すれば解決しますか

用途が分かっている場合は効きます。分かっていないまま配ると、配ったアカウントが使われず、個人のアカウントのほうが残ります。先に決めるのは、どの作業に使わせるかです。

Q. 禁止したのは間違いだったのですか

間違いではありません。情報漏洩と著作権のリスクは実在します。ただ、禁止で変わるのは使うかどうかではなく、会社から見えるかどうかのほうです。判断は残したまま、いま何に使われているかだけを先に確かめてください。

この記事は、製造業で12年間・100人規模の会社を経営した実体験と、公表されている調査、および働いている人が公開の場に書き込んだ相談をもとに書いています。AI導入の実績を報告するものではありません。

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