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中小企業のDXの進め方|何から始めるかの問題ではない理由と、始め方

「DX化しないといけない」「AIを導入しないといけない」
税理士や取引先からそう言われて、何か月か経つ。分かってはいるが、何から始めればいいか分からず、手をつけていない。
始める順番さえ決まれば動ける。そう考えているなら、たぶん違います。決まらないのは順番が分からないからではなく、なぜやるのかが外から来ているからです。目的が自分のものでないあいだは、どの手順書を読んでも最初の一歩が選べません。
製造業で12年、100人規模の会社を経営していました。
まず、順番の話ではないと言える理由から書きます。
DXは、何から始めるかが決まれば進められるのではありませんか
動きません。決めるための基準が、まだ社内にないからです。
「DXをやる」という言葉は、どの仕事から手をつけるかを何も決めてくれません。請求書の処理なのか、見積もりの作成なのか、過去の案件を探せるようにすることなのか。どれもDXに当てはまります。当てはまるものが多すぎて、選べません。
外から言われた目的は、ここで役に立ちません。「DXをしないといけない」は、やるかやらないかを決める言葉であって、どれをやるかを決める言葉ではないからです。
やるとは決めた。どれをやるかは決まっていない。その状態のまま、手順書を探しに行くことになります。
DXの進め方で止まっている中小企業は、ほかにもあるのですか
あります。しかも、止まっている場所は「順番が分からない」ではありません。
中小機構の調査では、DXに取り組むうえでの課題として「何から始めてよいかわからない」を挙げた会社は13.9%でした。11項目のうち6番目です。その上に来ているのが「具体的な効果や成果が見えない」で、21.4%あります(中小企業基盤整備機構「中小企業のDX推進に関する調査(2025年)」、2026年2月公表、有効回答1,000社)。
従業員20人以下に絞っても、この二つの上下は入れ替わりません。
始め方が分からないと答えた人より、やる意味が見えていないと答えた人のほうが多い。ここが順番の話ではないことを示しているのではないでしょうか。ただし調査が聞いているのは「効果が見えない」までで、なぜ見えないのかまでは聞いていません。
もう一つ、公的な相談窓口に持ち込まれた質問があります。中小機構のビジネスQ&Aには、この二つが並んで載っています。
- DXの推進について、どのように対応していけばいいでしょうか
- IT化とDXの違いを、中小企業がDXに取り組む際のポイントと併せて教えてください
検索されている言葉ではなく、人が窓口で実際に聞いた問いです。
二つ目のほうが、状況をよく表しています。違いを聞いているということは、何をやることなのかが、まだ決まっていないということです。順番が分からないのではありません。
言ってきた相手を責める話でもありません。税理士も取引先も、やったほうがいいとは言いますが、御社はどれをやるべきだとは言いません。言える立場にないからです。
これは、うちの会社の話ではありませんよね
ここまでは他社の話で、あなたの会社の話ではありません。移すかどうかを決めるために、一つだけ思い出してください。
先週、自分でないと進まなかった仕事はどれでしたか。その仕事は、いま誰が持っていますか。
見積もりや請求の確認を社長が自分で開いている会社では、その作業はたいてい何年も同じ人の手元にあります。忙しいからではなく、渡す形にしていないからです。
さきほどの、言われたまま手をつけていなかった会社も同じでした。やる気がなかったわけではありません。入出金も請求書も細かい交通費も、全部その場で見て処理していて、そこが詰まっているという自覚も一応ありました。それでも、DXという言葉とその作業が、頭の中でつながっていませんでした。
自社のどこが先に詰まっているかは、いくつかの質問に答えると見当がつきます。
このまま置いておくと、どうなりますか
今日は何も起きません。言われたことは覚えていて、手はつけていない。それだけです。
半年経つと、準備の手順書だけが増えます。業務の洗い出しの表を作りかけたことも、推進の担当を決めようとしたことも、一度は始まって止まっている。困るのは、止まったこと自体ではありません。止まった回数が、次に始めるときの重さになることです。
一年後、同じことをもう一度言われます。そのとき答えるのは「まだです」ではありません。「前に一度やってみたんですが」になります。
この二つは、聞いている側には同じに聞こえます。言っている側だけが違いを知っています。一度止めたものは、二度目のほうが始めにくい。決めるのは一日でできますが、止まった経験を戻すには何年もかかります。
洗い出しと担当者決めを先にすればいいのではありませんか
思いつく手は三つあるはずです。先に見ておきます。どれも間違いではなく、効く条件が決まっています。
業務の洗い出しから始める、が一つ目です。効くのは、何のためにやるかが決まっている場合です。決まっていないと、表ができた後に「で、どれをやるのか」がまた決まりません。洗い出し自体は正しい手順で、ここで言っているのは置く順番の話です。一番忙しい人に書き出しを頼んで止まる問題のほうは、業務の棚卸しが二週間進まない理由に書きました。洗い出しをするなとは言っていません。目的が決まっていない段階で全社から始めるな、と言っています。
推進の担当者を決める、が二つ目です。効くのは、決めた人に判断の材料が渡る場合です。目的が外から来ていると、担当者も「言われたから」をそのまま引き継ぐことになります。決める基準がないまま、決める係だけが増えます。
補助金が出るうちに始める、が三つ目です。効くのは、やることが先に決まっている場合です。補助金は手段の費用を軽くするもので、何をやるかは決めてくれません。締め切りに合わせて計画を作ると、通りやすい計画と自社の詰まりがずれます。
どこに相談すればいいかが分からない、という手前で止まっている場合は、AI導入の相談先に整理してあります。
中小企業のDXは、何から始めればいいですか
DXから始めません。いま自分が手放せていない仕事を一つ選びます。
ここで言葉を一つ分けておきます。IT化とは、いまのやり方はそのままで、手段を道具に置き換えることです。DXとは、道具が入った結果、仕事の進め方そのものが変わることを指します。順番はIT化が先です。進め方を先に変えようとすると、戻す先がなくなります。
手放せていない仕事は、外から言われなくても分かっています。先週、自分でないと進まなかったもの。その一つだけは、目的を決めなくても選べます。
さきほどの会社が最初に作ったのは、入出金と請求書と細かい交通費の処理でした。それから名刺の管理、休眠している取引先への連絡、過去の案件を後から探せるようにすること、と続いています。DXの計画を立ててからこの順番になったのではありません。手放せていないものから順に出てきました。
置く材料は、もうあるものです。請求書、入出金の記録、交通費の明細、過去のやり取り。新しく作るものではありません。そこからAIが出すのは、転記と集計の下書きで、書類の形になったものです。確かめて出すのは人です。
変わるのは、社長がそれを開かなくてよくなることです。そして一つ手放せると、次にどれを手放すかが自分で決まります。
順番が逆に見えるかもしれません。目的を決めてから始めるのではなく、一つ手放してから目的が決まる。ですが、外から与えられた目的は最初から使えません。自分が何を手放したいかという形でしか、この会社の目的は出てきません。
大変なのは、どれを手放すかを決めるところです。外から言われた目的では決まりません。難しくないのは、決めた一つを動かすほうで、材料はもう会社の中にあります。別のことを言っているので、矛盾はしていません。
改善の候補を並べ、効果を比べてから選ぼうとして止まる場合の選び方は、業務改善・業務効率化は何から始めるかに書きました。
断っておくと、この会社では実際に作って、いまも使われています。ただし、導入後に何がどれだけ変わったかは数えていません。時間がどれだけ減ったかを、この記事では書けません。
基幹システムを入れ替える前提ではありません。いま使っているシステム、Excel、メール、PDFがそのまま材料になります。一つ選んで試し、合わなければ止められます。
まず、先週自分でないと進まなかった仕事を一つ書き出してください。自社のどこが詰まっているかは、いくつかの質問で見当がつきます。
よくある疑問
Q. IT化とDXは何が違うのですか
IT化は、いまのやり方はそのままで、手段を道具に置き換えることです。DXは、道具が入った結果、仕事の進め方そのものが変わることを指します。順番はIT化が先で、そこを飛ばして進め方だけを変えようとすると、戻す先がなくなります。
Q. 業務の洗い出しから始めなくてよいのですか
洗い出し自体は正しい手順です。ただ、何のためにやるかが決まっていない段階で全社から始めると、表ができた後にどれをやるかがまた決まりません。先に一つ選んで、その周りだけを見てください。
Q. 補助金が出るうちに始めたほうがよいのですか
補助金は手段の費用を軽くするもので、何をやるかは決めてくれません。締め切りに合わせて計画を作ると、通りやすい計画と自社の詰まりがずれます。やることを先に決めて、それに合う制度を探す順番にしてください。
Q. 社員が少ない中小企業にも、DXは関係ありますか
関係します。人数が少ない会社ほど、社長が自分で開いている書類が多くなります。手放せていない仕事が一つでもあるなら、そこが出発点になります。
この記事は、製造業で12年間・100人規模の会社を経営した実体験と、公表されている調査、および実際に関わったクライアントで見たことをもとに書いています。
「うちの場合はどこから手をつけるのか」と思われたら。
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