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業務改善・業務効率化は何から始めるか|優先順位を効果の大きさで決めない選び方

請求書の転記。見積もりの作成。問い合わせへの返信。どれも直したほうがいい作業で、どれも後回しになっています。

「まず業務改善から」と言われて、その通りだと思った。それから数か月、どれから手をつけるかが決まっていません。

選べないのは、決断力の問題ではありません。効果が大きくて実現しやすいものから選べ、という決め方そのものが、着手する前には使えないからです。

製造業で12年、100人規模の会社を経営していました。

まず、なぜその決め方が使えないのかから書きます。

業務改善の優先順位は、効果が大きくて実現しやすいものから決めるのではありませんか

使えません。二つの条件のうち、効果のほうが着手する前には出てこないからです。

実現しやすさは、始める前に見当がつきます。工程がいくつあるか、何人が関わるか、どの書類を触るか。数えれば出てきます。

効果のほうは数えられません。その作業にかかっている時間がどれだけ減るかは、減らしてみるまで分かりません。似た会社の事例があっても、自社の手順が同じとは限りません。

二つの条件のうち、片方は埋まり、片方は空欄のまま残ります。空欄がある表を前にして、位置は決まりません。

決まらないまま候補を見比べる時間が続くと、候補のほうが増えていきます。減るのは、決めようとする回数のほうです。

ほかの会社は、業務改善の優先順位をどう決めているのですか

「中小企業 業務改善 どの業務から始める 優先順位 決め方」ほか二つの言葉で調べて、上位から10本を開きました。

9本が選び方を書いていて、9本とも「比べて選べ」と言っています。

軸は分かれます。効果と難易度で点数を付ける。業務量の多い順に並べる。発生の頻度で決める。導入の費用が低いものから試す。そのうち4本は、効果の大きさを着手する前に見積もることを求めています。

いちばん丁寧に書いているものから、そのまま引きます。

> 「改善の難易度」とは、改善を行う費用(お金、時間、手間)です。難しいものにはお金や時間、手間がかかります。 > 「改善の効果」は文字通り、改善で得られる効果です。

大塚商会のERPナビ「第4回 業務改善(その2)最初に行うこと」から引きました。

二つの軸は、書かれ方が違います。

難易度のほうには中身が書いてあります。お金、時間、手間。どれも着手する前に数えられます。

効果のほうは「改善で得られる効果です」で終わっています。 測り方が書かれていません。これは書き手が手を抜いたのではありません。書けないからです。

二つの軸のうち、片方が空のままです。 空の軸に沿って位置は決まりません。表を作っても決まらないのは、表の作り方が悪いからではありません。

比べるのをやめたほうがいい、と書いている記事は、10本の中に見つけられませんでした。

ここまでが、助言の側です。もう一つ、別の材料があります。公的な相談窓口に、経営者が実際に持ち込んだ質問です。中小機構のビジネスQ&Aから、二件そのまま引きます。

一件目。

> 当社は創業50年を超える老舗企業です。長い歴史の中で、無駄な業務が多くなってきていると感じています。そこで、業務効率化を図っていきたいと考えています。

業務の名前が一つも出てきません。「無駄な業務が多くなってきている」までです。困っていることは正確に書かれていますし、相談する先も正しい。ただし、どれから手をつけるかは、この文の中にまだありません。

二件目。

> 文房具店を営んでいます。毎日、多数の商品発注業務に追われていますが、事務が非効率でミスが絶えません。何か良い改善方法はないでしょうか。

こちらは一つに絞れています。 商品発注の事務、と名前が付いています。

二件を並べると、絞れている側が何を根拠にしたのかが見えます。 効果の見積もりではありません。「毎日」と「ミスが絶えない」です。どちらも、すでに起きたことです。

見積もった人ではなく、もう繰り返し起きていることを書いた人のほうが、一つに絞れていました。

なお一件目への回答は、「すぐにできそうな業務改善から順次行っていく」と始まります。会議の無駄、社内文書の無駄、営業の効率化を、難しくない順に。公的な窓口も、比べる形で答えています。

これは、うちの会社の話ではありませんよね

ここまでは他社の話です。自社に移すかどうかを決めるために、一つだけ思い出してください。

先月、同じ形の作業を何回やったか。数えなくて構いません。いま、思い浮かびますか?

数えた数ではなく、思い出せるかどうかを見ています。思い出せる作業は、回数が記憶に残るくらい繰り返されています。表の中では、その作業も他の候補と同じ一行にしか見えません。

候補の一覧を作った会社ほど、ここが見えにくくなります。並べた瞬間に、どれも同じ大きさの箱になるからです。

自社のどこが先に詰まっているかは、いくつかの質問に答えると見当がつきます。

このまま置いておくと、どうなりますか

今日は何も起きません。候補の一覧があって、どれも正しくて、決まっていない。それだけです。

半年経つと、一覧が古くなります。作業の中身が変わり、担当も変わり、書き直しが要ります。書き直すと候補が増えます。減りません。

困るのは、増えることではありません。半年比べていても、どの候補についても分かったことが一つもないことです。やっていれば、効いたか効かなかったかは一件ずつ確定していました。比べている限り、その一件が出てきません。

経営していた12年のあいだに、製造、物流、経理、事務と、ほぼすべての部門で標準化に取り組んで、ほぼすべてで失敗しています。どれが効くかは、やる前には当てられませんでした。当時の実感は「標準化できないのが普通」でした。

一年後、同じ相談をもう一度することになります。そのとき渡す一覧は、一年前より長くなっています。

業務効率化は、まず業務量を測って多い順にすればいいのではありませんか

思いつく手は三つあるはずです。先に見ておきます。どれも間違いではなく、効く条件が決まっています。

業務量を測って多い順にやる、が一つ目です。効くのは、量が改善のしやすさと結びついている場合です。量は着手する前に測れるので、効果で比べるより強い手です。ただし、測る工程そのものが止まります。一番忙しい人に書き出しを頼むことになるからで、そこは業務の見える化は、なぜ途中で止まるのかに書きました。測るなとは言っていません。量が分かっても、どれをやるかは別に決まる、と言っています。

全社で洗い出してから決める、が二つ目です。効くのは、何のためにやるかが決まっている場合です。決まっていないと、表ができた後に「で、どれをやるのか」がまた決まりません。そもそもやる理由が外から来ている場合は、DXは、何から始めるかの問題ではありませんのほうが近い話です。

効果が読める作業が出るまで待つ、が三つ目です。効くのは、待っている間に情報が入ってくる場合です。候補を眺めているだけでは入ってきません。読めるようになるのは、どれか一つをやった後です。

三つとも、比べる形は変えていません。軸を差し替えているだけです。

業務改善は、どこから手をつければいいですか

比べるのをやめて、繰り返し起きている作業を一つ選びます。

効果の代わりに使える材料が一つだけあります。何回やったかです。これはすでに起きたことなので、着手する前に分かります。効果は未来の数字ですが、回数は過去の数字です。

もう一つ、選ぶときに効く違いがあります。大きい工程はやめる根拠が要りますが、小さい工程は理由がなくても動きを変えられます。

効果が大きいと見立てた工程は、たいてい関わる人が多く、いまのやり方で回ってきた年数も長い。変えるには「なぜ今までのやり方をやめるのか」を説明する責任が発生します。その説明に使える材料は、やってみた後にしか出てきません。効果が大きいものから、という助言は、いちばん動かしにくいものを最初に指名していることになります。

小さい工程は、誰にも説明せずに変えられます。根拠を用意する前に動かせて、動かした後に材料のほうが出てきます。

選んだら、その一つだけに手を入れます。

材料として置くのは、もうあるものです。その作業で毎回開いているファイル、受け取っているメール、入力している画面。基幹システムを入れ替える前提ではありません。いま使っているシステム、Excel、メール、PDFが、そのまま材料になります。

AIが返すのは、その作業の下書きです。転記、集計、照合、決まった形の返信。人がやっても機械がやっても出来上がりが変わらない部分を引き受けます。

人がやるのは、確かめて出すところです。出てきたものが実態と合っているか、出してよいかを決めるのは人です。

選んだ一つが外れることもあります。やってみて何も変わらなければ、それはその作業についての実測になります。比べている限り、この実測は手に入りません。 外れた一件は、次に選ぶときの材料になります。候補の一覧は、何回眺めても材料が増えません。

大変なのは、一覧を捨てると決めるところです。時間をかけて作った表ほど、使わずに置くのは決心が要ります。難しくないのは、繰り返している作業を一つ挙げるほうです。もう分かっているものを挙げるだけなので、調べ直す必要がありません。別のことについて言っているので、矛盾はしていません。

比べるのをやめると、一件ずつ確定し始めます。決まらなかったのは候補が多かったからではなく、確定した候補が一件も無かったからです。

よくある疑問

Q. どれも同じくらい繰り返している場合は、どうやって選ぶのですか

順番を決める必要はありません。どれか一つを選んでください。同じくらい繰り返しているなら、どれを選んでも一回で結果が出ます。選び直すのは、その一件が終わってからで間に合います。

Q. 効果が小さい作業を選んでしまうと、無駄になりませんか

無駄にはなりません。効果が小さいと分かったこと自体が、比べていた間には手に入らなかった情報です。比べ続けた場合は、どの候補についても分からないままになります。

Q. 業務量を測ってから決めたほうが確実ではありませんか

量を測るのは正しい手順です。ただし量が分かっても、どれをやるかは別に決まります。量を測る工程そのものが止まりやすい話は、業務の見える化は、なぜ途中で止まるのかに書きました。

Q. 社員に「なぜこれを選んだのか」と聞かれたら、何と答えればよいですか

「毎回これで止まっているから」と答えてください。効果の見積もりを根拠にすると、出なかったときに説明が続きません。繰り返している事実は、社員のほうが先に気づいています。

この記事は、製造業で12年間・100人規模の会社を経営した実体験と、公開されている記事および公的機関に寄せられた相談をもとに書いています。

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