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業務の引き継ぎがうまくいかないのは、後任のせいではない|原因と、渡せるものの渡し方

「このまま一人で月末まで業務を行ってください」

辞めることが決まっていた人に、そう連絡が届きました。

経験者が抜けると分かっていて、後任を採り、引き継ぎ期間も置いた会社で起きていることです。

引き継ぎが失敗すると、たいてい後任の力不足で片づけられます。ですが、渡らなかったのは、渡せる形にしていなかったからです。10年分の判断が一人の頭の中にしかない仕事は、人を採っても引き継がれません。

後任への引き継ぎで、何が起きたのですか

はてな匿名ダイアリー(2022年)に投稿された話です。投稿者はデザイン系の仕事をしてきた人で、この仕事に就いて10年になります。契約期間の途中で退職が決まり、後任への引き継ぎが始まりました。

「2週間で一人で業務を行えるようになった」というのが、投稿者自身がこの仕事を覚えたときの話です。作業の手順は、渡そうと思えば渡せます。

引き継ぎの期間も用意されていました。ですが後任は、この仕事の未経験者でした。ひと月と経たないうちに休み、次の勤務日も来ず、連絡がつかなくなりました。

誰をこの仕事に当てるかを決めたのは、後任ではありません。採用し、配置を決めたのは会社です。後任が未経験だったことは事実ですが、その事実が指しているのは後任の力不足ではなく、誰に何を任せるかを決める側の判断です。

引き継ぎがうまくいかないのは、後任が仕事をできないからですか

会社は手続きを踏んでいました。後任を採用し、引き継ぎの期間も設けています。「期間と後任を用意すれば済む」という発想からすれば、やるべきことはやっていたはずです。

会社にとっての引き継ぎは、期間を確保し、担当者を配置することで完結していました。渡った先に何が起きるかまでは、設計に入っていなかったのです。

それでも渡りませんでした。後任が来なくなったあと、会社は代わりの人を立てることも、引き継ぎのやり方を見直すこともせず、辞める本人にもう一度、こう伝えました。

「後任の人へ引き継ぎを継続するのが難しくなったので、このまま一人で月末まで業務を行ってください」

期間と後任を用意しても、渡らなかったときに戻ってくる先は、結局いちばん詳しい一人でした。これは、後任が誰であっても起きたはずのことです。失敗したのは後任ではなく、渡す仕組みの方でした。

引き継ぎがうまくいかない原因は、どこにあるのですか

渡らなかったのは、作業ではなく判断です。フォルダの使い方や手順は教えられます。ですが「この取引先は直前に条件を変えてくることがあるから、先に確認しておく」というような判断は、隣で見ていても簡単には移りません。

私にも覚えがあります。経営者として、人を育てることの重要性は分かっていましたし、指示もしていました。それでも現場は目の前の仕事で手一杯で、育てる余裕がないという状態が続きました。動きは鈍いままでした。責める気にはなれませんでした。余裕がないところに、育てろとだけ言っても動かないのです。

その判断は、いま誰が持っていますか。

このまま引き継ぎのやり方を変えなければ、次はいつ止まりますか

今日も、その判断は一人の頭の中で行われています。表面上は何も問題が起きていません。

半年後、その人が体調を崩すか、家の事情が変わるか、条件のいい話が来るかもしれません。そのとき初めて、代われる人がいないことに気づきます。

辞めると決まるのは一日です。ですが、その人が持っていた判断を別の誰かに戻すには、もっと長い時間がかかります。失うのにかかる時間と、戻すのにかかる時間は、同じではありません。

一年後、何を惜しむことになるでしょうか。辞めると言われたときに理由を聞かなかったこと。判断の理由が本人のメールの中にしか残っていなかったこと。引き継ぎの期間を、作業の手順を教えることだけに使ってしまったこと。

自社ではどこが先に止まるか。いくつかの質問に答えると、詰まりの場所が見えます。

引き継ぎ書を作るか、引き継ぎの期間を延ばせばいいのではありませんか

引き継ぎ書を作ればいい、という声はよく聞きます。実際、作れるものはすでに作られています。手順書はあります。ですが、手順書に書けるのは作業までです。この場合はどう判断するか、というところまでは、紙に書ける形をしていません。

引き継ぎ期間を延ばせばいい、とも言われます。ですが期間を延ばしても、渡す側が判断の中身を言葉にできていなければ、時間だけが延びて中身は変わりません。

一人が抜けても回るよう、複数人に同じ領域を持たせるやり方もあります。私自身、一人が辞めても回るように、その領域を知っている人を複数作ったことがあります。ですが、これは実際にやってみるとかなり大変でした。うまくいった方法として人に勧められるほど、きれいな話ではありません。しかも、複数人に持たせても、渡した相手がまた辞めれば、渡したものは一緒に会社の外に出ていきます。

引き継ぎ書も、期間も、複数人も、どれも間違ってはいません。ただ、どれも判断を人から人へ渡し続けるという前提の上に立っています。渡す相手が辞めるたびに、同じことをもう一度やり直す必要が出てくるのです。

業務の引き継ぎでは、何を渡せばいいのですか

判断そのものを人から人へ渡すことは、これからも簡単にはなりません。ただ、判断に使った材料を人の頭の外に置いておくことは、今ならできます。

置くものは、新しく作るものではありません。すでにあるものです。過去の案件の記録、そのときのやり取りをしたメールやチャット、そして「この取引先は直前に条件を変えてくることがあるから先に確認した」というような判断の理由です。

これをAIに読ませておくと、似た場面が来たときに、過去に似た案件があったか、そのときどう決めたか、なぜそう決めたのかを返してくれます。取引先ごとに条件が違う仕事や、季節や在庫の状況で毎回微妙に判断を変える仕事ほど、この差は大きくなります。

返ってくるのは答えではありません。決めるのは、あくまで人です。AIが出すのは「前はこうでした」という材料と、その理由までです。

これができると、その人が辞めても、判断の材料は会社に残ります。次に入った人は、聞く相手がいなくても、前例を確認できます。採用のたびに、同じ説明を一からやり直す必要もなくなります。担当者がいないと止まる仕事が、少しずつ減っていきます。

引き継ぎ自体が要らなくなるわけではありません。作業の引き継ぎは、これまでどおり必要です。減らせるのは、判断を人から人へ渡し続ける手間の方です。

ここに書いたのは、そういう形になるはずだという話で、自分の会社で確かめた結果ではありません。当時、この選択肢が無かったためです。

他社で回っている方法が自社で回らないとき何を見ればいいかは、なぜ他社のマニュアルは機能して、うちだけうまくいかないのかに書きました。

業務の引き継ぎの方法は、明日から何を変えればいいですか

基幹システムを入れ替える必要はありません。いまのシステムやExcel、メール、PDFが、そのまま材料になります。

全部の仕事でやる必要もありません。まずは一つの仕事から始めて、合わなければそこで止められます。今のやり方は、何も壊れていません。

明日からできることは3つです。

まず、一つの仕事を選び、その仕事に関わる過去のやり取り(メール、議事録、見積もり)をAIに読ませます。新しく集め直す必要はありません。

次に、AIに「この仕事で判断が要る場面はどこか」を挙げさせます。

最後に、挙がった場面について、過去の事例と、そのとき何を見てそう決めたのかをAIに返させます。返ってこなかった場面が、いま人の頭の中にしかない部分です。

そこまで分かれば、何が渡っていないかがはっきりします。そこから先は、この記事の外の話です。

後任を替えても、期間を延ばしても、同じ結果になったはずです。10年分の判断が一人の頭の中にしかない状態は、人の問題ではなく、仕事の形の問題です。

手元にある材料で何ができるのかは、中小企業がAIでできることは何かに並べました。

よくある疑問

Q. 引き継ぎにAIを使うとは、何を使うのですか

新しいソフトを一つ入れるという話ではありません。すでに使っているメールやExcel、PDFの記録を、AIが読める形にして繋ぐという話です。会社によって、必要な組み合わせは変わります。

Q. 引き継ぎにAIを使うと、費用はどれくらいかかりますか

仕事の範囲や、いま残っている記録の量によって変わるため、ここで金額を言い切ることはできません。ただ、基幹システムを入れ替えるような投資ではなく、一つの仕事から始められる規模のものです。

Q. 小さな会社でも、引き継ぎにAIを使えますか

社員が5人でも500人でも、判断が一人の頭の中にしかない仕事は必ずあります。規模が小さいほど、その一人が抜けたときの影響は大きくなります。規模の小ささは、始めない理由にはなりません。

Q. 引き継ぎ書は、もう作らなくていいのですか

作業の手順を残す引き継ぎ書は、これからも必要です。変わるのは、手順書に書けなかった判断の部分を、別の形で残せるようになるということです。

「うちの場合はどこから手をつけるのか」と思われたら。

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