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売上が落ちた原因を、経験で決めつける前に。取引先ごとに確かめて、打ち手を一つずつ試す方法

「ニッチな分野にも大手資本が参入してきて、受注が減少しています」。郊外で工務店を営む会社が、中小企業基盤整備機構の相談窓口 J-Net21 に寄せた相談です。
売上が落ちると、社長は原因を探します。探し始めたときには、もう心当たりがあることもあります。
ですが、売上が落ちた原因は、社長の経験だけでは決まりません。取引先ごと・商品ごとに、どこが減ったのかを確かめ、打ち手をいくつも出して一つずつ試すことで、本当の原因と効く手に近づけます。
製造業の会社を経営してきた立場から、原因の確かめ方と、打ち手の試し方を書きます。
売上が下がる原因は、社長の経験で分かるのではありませんか
会社のことを一番長く見てきたのは社長です。取引先の顔も、商品の強みも、業界の流れも知っています。だから、売上が落ちたときに「原因はあれだ」と思い当たるのは自然なことです。
ただ、そのときに起きやすいことがあります。現場に向かって「どうなってるんだ」と投げてしまうことです。
聞かれた現場は、目の前の案件の話をします。あの見積もりは価格で負けた、あの取引先は担当が替わった。どれも本当のことですが、会社全体でどこが減ったのかという答えにはなりません。
そうして集まった話を、社長は自分の経験に当てはめて原因を決めます。経験は、これまでの取引先とこれまでの市場の中で作られたものです。市場や取引先の側が変わっていれば、経験から決めた原因が、実際の原因とずれていることがあります。
ずれた原因に打った手は、減ったところに届きません。効かなかったとき、次の手もまた経験から決めてしまうおそれがあります。
売上や受注の減少は、どれくらいの会社の悩みなのですか
日本政策金融公庫が全国の小企業6,051社に聞いた調査では、当面の経営上の問題点として「売上不振」を挙げた会社が30.5%で、最も多くなりました(出典:日本政策金融公庫「全国中小企業動向調査」2026年4-6月期、2026年7月27日公表。問題点を1つ選ぶ形)。
同じ調査の中小企業編(原則として従業員20人以上の5,236社)でも、「売上・受注の停滞、減少」が24.2%で、原材料高に次ぐ2番目でした。
売上の落ち込みは、この調査の小さな会社で、いまいちばん多く挙がった悩みです。冒頭の工務店は、大手の参入を原因と見ています。気をつけたいのは、その心当たりを確かめないまま手を打ってしまうことです。
売上が減ったのは、どの取引先の、どの商品ですか
ここで、自社のことを1つだけ確かめてください。
去年と比べて売上が減ったのは、どの取引先の、どの商品ですか。その数字を、いま誰が持っていますか。
すぐに答えられるなら、原因の確かめはもう半分進んでいます。答えられないなら、社長が思っている原因は、まだ確かめられていない仮説のままです。
「大手が入ってきたから」も、確かめる前は仮説の一つです。大手と重なる商品だけが減っているのか、大手と関係のない取引先でも減っているのか。分けて見ると、打つ手が変わることがあります。
社外の人に話してみるのも一つの方法です。自分では当たり前に思っている前提を、外の人は当たり前とは見ません。自社の売上の減り方を一緒に分けて見る場合は、相談で状況を伺います。
売上が減っているのに、このまま経験で決めた手を打ち続けると、何が起きますか
ずれた原因に手を打つと、お金と時間が、減っていないところに使われます。
たとえば、減っているのが古くからの取引先の追加注文なのに、「新規が取れていない」と決めて広告を増やす。広告の費用は出ていきますが、減った追加注文は戻りません。
効かなかった手は、やめる理由もはっきりしないまま続きがちです。どの手が効いて、どの手が効かなかったのかを記録していないと、次に何を試せばいいのかも決まりません。
その間も、売上が減っている取引先では、何かが変わり続けています。
売上が落ちたら、新しい販路を探すか、値下げをすればいいのではありませんか
どれも、効く条件があります。
新しい販路を探すのが効くのは、今の取引先全体が縮んでいて、どこかで売り先を足す必要があるときです。減った原因が今の取引先の中にあるなら、新しい販路を足しても、同じ理由で減り続けます。販路の探し方は賃上げと業績の記事に書きました。
値下げが効くのは、価格で負けていることが確かめられたときです。負けている理由が納期や対応の早さなら、値下げは利益だけを削ります。
営業の回数を増やすのも同じです。誰に何を持っていくかが決まっていないまま回数を増やしても、現場が疲れるだけになるおそれがあります。
どれも、原因を確かめたあとなら打てる手です。先に要るのは、どこが減ったのかを確かめることと、打ち手を一つに絞らずに並べることです。
売上減少の原因分析と打ち手の検証は、AIでどう進めるのですか
原因を確かめるとは、売上の減り方を取引先・商品・時期に分けて、どこが減ったかを数字で突き止め、その理由の候補を一つずつ当てていくことです。
打ち手も同じ考え方で扱います。思いつく手をいくつも並べ、手間と費用の小さいものから一つずつ試し、効いたかどうかを数字で見る。
この進め方は、分ける・並べる・記録するのに時間がかかります。販売管理から取引先ごとの数字を出し、去年と並べ、競合の動きを調べ、打ち手ごとの費用と結果を付けていく。日々の受注と納品の合間には入りにくい作業です。
この作業は、AIに渡せます。
| 作業 | AIに渡すもの | AIが返すもの | 社長が決めること |
|---|---|---|---|
| どこが減ったかを分ける | 販売管理の売上データ(取引先・商品・月ごと) | 取引先ごと・商品ごとの去年との差と、減り方の大きい順の一覧 | どこから調べるか |
| 原因の候補を並べる | 分けた結果と、社長が考えている原因 | 考えられる原因の候補と、それぞれを確かめるのに要る数字 | どの候補から確かめるか |
| 競合の動きを追う | 競合のホームページ・チラシ・施工事例などの公開情報 | 価格・品目・打ち出し方がいつ、どう変わったかの一覧 | 負けている点が何か |
| 打ち手を並べる | 確かめた原因と、使える人数・予算 | 打ち手の案と、それぞれの手間・費用・結果が見えるまでの期間 | 試す順番 |
| 試した結果を付ける | 打ち手ごとにかかった時間・費用と、その後の問い合わせ・見積もり・受注の数 | 打ち手ごとの費用と結果の一覧 | 続けるか、やめて次を試すか |
冒頭の相談とは別の、架空の工務店で考えます。従業員5人で、リフォームの受注が去年より減っています。社長は、大手が地元に入ってきたからだと考えています。
まず、過去2年分の工事の一覧をAIに渡し、工事の種類ごと・紹介元ごとに去年と並べさせます。仮に、減っているのは水回りの小さな工事で、外壁や増築のような大きな工事は横ばいだったとします。紹介元で見ると、以前のお客さんからの紹介が減っていた、という形です。
次に、その結果と「大手が入ってきた」という見立てを一緒に渡し、原因の候補を挙げさせます。大手が水回りの定額パックを打ち出した。以前のお客さんへの連絡が途切れている。問い合わせへの返事に日数がかかっている。候補ごとに、何を見れば確かめられるかも返ってきます。これが壁打ちです。社長の見立てを正しいと決めずに、ほかの候補と並べて比べられます。
競合の動きは、大手のチラシやホームページを時期ごとに渡して確かめます。定額パックがいつ始まったかと、自社の受注が減り始めた時期が重なっていれば、その候補から先に確かめる理由になります。重なっていなければ、別の候補を先に確かめます。
原因の見当がついたら、打ち手を並べます。以前のお客さんに点検の案内を送る、問い合わせにその日のうちに返す、水回りの工事に自社の保証を付けて打ち出す。AIには、使える人数と予算を渡して、案ごとの手間と費用、結果が見えるまでの期間を並べさせます。社長は、手間と費用の小さいものから試す順番を決めます。
試したら、かかった時間と費用、その後の問い合わせや見積もりの数を毎月渡し、打ち手ごとに並べさせます。効いた手は続け、効かなかった手はやめて次を試します。これまで見えていなかった打ち手ごとの損得が、数字で見えるようになります。
注意も2つあります。AIが返すのは原因の候補で、原因そのものではありません。候補を確かめるのは、元の数字と、取引先や現場への具体的な問いです。分けた数字があれば、「どうなってるんだ」ではなく、「この取引先の追加注文が減ったのはいつからか」と聞けます。もう1つ、お客さんの名前が入ったデータを渡すときは、社外に出してよい形にしてから渡します。
原因を確かめてから打つと、売上の回復に向けて何が変わりますか
原因の候補を確かめてから打つと、打ち手が一つ外れても、次に何を試すかがはっきりしています。記録が残っていれば、同じ手を二度試さずに済みます。
現場への問いも変わります。数字で分けた結果を持っていれば、営業担当には「この取引先に、いま何を提案しているか」、事務には「問い合わせへの返事に何日かかっているか」と、答えられる問いを渡せます。止まった取引先へのフォローの進め方は連絡が途切れた取引先の記事に、商談の中身の残し方は商談の進め方の記事に書きました。見込みのある打ち手が見つかれば、それが営業担当の次の予定に入ります。
大変なのは、打ち手を一つずつ試し、効かなかった手をやめると決めることです。そこは社長が決めるしかありません。難しくないのは、確かめを始めることです。今の販売管理やExcelの売上データを、お客さんの名前を外してAIに渡すところから始められます。新しいシステムに入れ替える必要はありません。
売上がすぐに戻るとは限りません。ただ、どこが減ったのかと、どの手が効いたのかが見えていれば、次の一手を経験だけで決めずに済みます。
よくある疑問
Q. 売上が伸びない理由は、どう調べればいいですか
去年と比べて、取引先ごと・商品ごと・月ごとに分けて並べます。減っているところが絞れたら、その理由の候補を挙げ、一つずつ数字で確かめます。販売管理やExcelのデータをAIに渡せば、分けて並べる作業は短くできます。
Q. 建設業で受注が減ったときも、同じ確かめ方でいいですか
同じ確かめ方が使えます。工事の種類ごと、元請けや紹介元ごと、月ごとに去年と並べ、減った工事と減った依頼元を絞ってから、理由の候補を一つずつ確かめます。工事の一覧や見積もりの控えをAIに渡せば、分けて並べる作業は短くできます。
Q. 売上を回復させる打ち手は、どの順番で試せばいいですか
手間と費用が小さく、結果が早く見えるものから試します。打ち手ごとに、かかった時間と費用、その後の問い合わせや受注の数を記録すると、続けるかやめるかを数字で決められます。
Q. AIに相談すると、売上が落ちた原因を答えてくれますか
AIが返すのは原因の候補と、それを確かめるのに要る数字です。原因そのものではありません。候補を元の数字や取引先への確認で確かめ、どれが本当の原因かを決めるのは社長です。
Q. 競合の動きは、どう調べればいいですか
競合のホームページやチラシ、施工事例などの公開情報を時期ごとに集め、価格・品目・打ち出し方の変化をAIに並べさせます。自社の売上が減り始めた時期と重なるかを見ると、その競合の影響を確かめられます。