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初回の商談で答えられなかった質問は、どこへ行くのか

「持ち帰って確認します」と言って、その日は終わりました。
翌週、社内で聞いてみると、同じ質問は前にも出ていました。別の担当が、半年前に答えています。
その質問に、会社は答えを持っていました。ただ、その場にいた一人が知らなかっただけです。
私は製造業で12年、100人規模の会社の代表を務めました。当時、いまのような道具はありません。
先に、その場に何を持って行けるかから片づけます。
商談の準備をしても、初回に答えられない質問が出るのはなぜですか
準備が足りないからではありません。答えを持っている人が、その場にいないからです。
初めて会う相手なので、何を聞かれるかは読めません。前回の話も、過去のやり取りもありません。だから「相手のことは相手側にしか無い」と考えて、相手の会社のサイトを調べ、業界の記事を読み、それで準備を終えます。
ただ、会社にとっては初めてではありません。似た業種の相手に、似た質問を何度も受けています。保守はどこまで含まれるのか。既存の設備とつながるのか。うちの規模でも使えるのか。どれも、誰かが以前に答えています。
答えた本人は覚えています。覚えているのは本人だけです。答えた内容は、そのとき送ったメールと見積もりの中にあります。ただ、それを次に会う人が読むことはありません。どこに何があるか分からないからです。
だから、商談に出る人が変わると、答えられる範囲も変わります。同じ質問に、人によって違う答えが返ることもあります。相手からは、会社の答えとして受け取られます。
会社にあるはずのその答えを、いま誰が持っていますか。
私は、事業で一番の問題は集客と成約とその後のフォローの三つだと考えています。この三つで違うのは、表現の仕方とアプローチの仕方です。相手ごとに変えたほうが効くことは、多くの人が分かっています。ただ、相手ごとに変えるのを人の記憶でやると、覚えている一人の手が空いたときにしか動きません。
このまま何も変えなければ、商談の結果はどうなりますか
失注の理由が分からないまま残ります。
持ち帰った質問のうち、何割が返事に至ったか。数えている会社は多くありません。答えを調べて返すまでに数日かかり、その間に相手が別のところで決めてしまう。断られたわけではないので、失注の記録にも残りません。
「検討します」で終わった案件も同じです。何が引っかかったのかは、その場にいた人の印象としてしか残りません。印象は共有されないので、次の商談でも同じところで引っかかります。
いちばん見えにくいのは、出た人によって結果が違うことです。ベテランが出た商談と、入って半年の人が出た商談では、答えられた範囲が違います。ただ、失注の理由は「相手の予算が合わなかった」と記録されます。答えられなかったことは、理由として書かれません。
自社ではどこが先に詰まっているか。いくつかの質問に答えると見当がつきます。
想定問答集を作ればいいのではありませんか
作れます。続かないのが問題です。
一度作った想定問答集は、その日から古くなります。価格が変わり、納期が変わり、体制が変わる。更新の担当を決めても、商談に出ている人がいちばん忙しいので後回しになります。
もう一つ、手で作ると相手ごとの差が出ません。全社で一つの想定問答集を作ろうとすると、どの相手にも当てはまる薄い答えになります。実際に効くのは「似た業種の相手が、去年これを聞いてきた」のほうです。
| 手で作る想定問答集 | 記録から作る | |
|---|---|---|
| 材料 | 思い出して書く | すでに送った文面 |
| 相手ごとの差 | 出ない(全社で一つ) | 条件で並べ替えられる |
| 古くなったとき | 気づけない | 材料が新しいほうに増える |
人を増やしても同じです。増えるのは商談に出られる人で、その人が答えられる範囲は、その人が経験した分だけです。人が抜けたときに何が渡って何が渡らないのかは、引き継げなかったのは、後任のせいではないに書きました。
商談の準備にAIを使うなら、新しい道具は要りますか
新しく買うものはありません。最初に使うのは、すでに社内にあるものです。
送信済みのメール、出した見積もり、打ち合わせのときのメモ、問い合わせへの返信。相手からの質問と、それに答えた文面は、この中に文字で残っています。営業支援のソフトを先に入れると、そのソフトに合わせて過去の商談を入力し直す作業が最初に来ます。それは、思い出して書き出す形に戻ったのと同じです。
生成AIの置き場所は、想定問答を新しく考えさせる側ではありません。すでにある文面を読ませる側です。読んで、聞かれたことと答えたことの対に直す。そこだけを任せます。
どの製品を使うかは、この段階では決まりません。やり取りがメールに残っている会社と、チャットに残っている会社では、読ませる先が違うからです。道具を決める前に何を頼みたいのかを決める話は、中小企業のAI導入、誰に相談すればいいのかに書きました。
商談の事前準備は、何をすると当日に効きますか
新しく書き出さないところから始めます。過去の商談で実際に聞かれたことを、記録の側から拾います。
順番は四つです。
一つ目。材料は、商談の跡から取ります。
これまでに送った提案のメール、出した見積もり、打ち合わせのときのメモ、問い合わせへの返信。相手からの質問と、それに答えた文面は、たいていこの中に文字で残っています。準備のために誰かに思い出してもらう必要はありません。四つ全部が揃っている必要もなく、いちばん残っている一つから始められます。
二つ目。そこから「聞かれたこと」と「どう答えたか」の対を抜き出させます。
出てくるのは、「保守はどこまで含まれるのか」「既存の設備とつながるのか」「納期はどれくらいか」といった質問と、そのときに返した答えの組です。ここまでは、誰と会うかに関係なく作れます。会社が今までに答えてきたことの一覧、という形になります。
三つ目。次に会う相手の条件を渡して、近い順に並べ替えさせます。
業種、規模、どこから来た話か。この三つを渡すと、条件の近い相手に実際に出た質問が上に来ます。製造業の会社と小売の会社では、同じものを売っていても聞かれることが違います。型の「ヒアリング」という言葉は、この違いを教えてくれません。
四つ目。出てきた想定問答を、人が直します。
ここは省けません。価格も納期も体制も変わります。AIが出すのは「過去にこう答えた」であって、「今もこう答えてよい」ではありません。どれが今も有効かを決めるのは人です。
白紙から想定問答を作ると、思い出せた質問しか入りません。一覧を直す形なら、忘れていた質問も目に入ります。
足していく工程は要りません。商談で新しい質問が出て、持ち帰って答えれば、その答えはまた送信済みのメールに残ります。一つ目の材料が、そのまま増えます。次は同じ読み方をもう一度通すだけです。
この四つで変わるのは、話し方ではありません。その場に何を持って行けるかのほうです。
自社では、去年いちばん多く聞かれた質問を言えますか。
断っておくと、これを自分の会社で確かめたわけではありません。私が経営していた頃に、この道具はありませんでした。電話と対面だけで終わった商談は、この形では出てきません。
この方法でも出てこないものは何ですか
三つあります。先に知っておくと、出てきた一覧の読み方を間違えません。
一つ目は、文字に残らなかった商談です。電話で受けた相談、訪問先での立ち話、その場で口頭のまま片づいた確認。ここは記録の側に残らないので、AIにも見えません。しかも、この種のやり取りはいちばん経験のある人に集まります。出てきた一覧が薄いと感じたら、たいていここが抜けています。
二つ目は、出てくるのが過去の答えであって、今の答えではないことです。価格も納期も、去年と同じとは限りません。使えるのは「何を聞かれるか」の部分で、「どう答えるか」は人が見直します。
三つ目は、一覧があることと、商談中に引けることが別だという点です。手元に二十行の想定問答があっても、話しながら探せなければ意味がありません。事前に目を通しておく時間は、やはり要ります。
会社で使う方へ。どの記録から始めるか、出てきた一覧をどう読むかは資料にまとめてあります。会社で商談の準備を組む方はこちら。
ひとりで仕事をしている方は、材料が自分の送ったメールだけになるので、始め方が変わります。ひとりで仕事をしている方はこちら。
商談の準備で、何をAIに任せて、何を人が決めるのですか
AIに任せるのは、過去の商談に出た質問と、そのときどう答えたかを記録から抜き出し、次に会う相手に近い順で並べるところまでです。その答えが今も正しいかを決めるのは人です。
任せられるのは、送った文面を通しで読み、質問と答えの対に直し、相手の条件で並べ替える作業です。人がやっても機械がやっても結果は変わらず、人がやると、いちばん経験のある人の手が止まります。
人が決めるのは、どの答えが今も有効か、どこまで踏み込んで答えるか、その場で言わないほうがよいことは何かです。ここは、その相手を見た経験がないと決まりません。同じ質問でも、決裁の近い人から出たのか、担当者の確認なのかで、返し方が変わります。その違いは記録には出ません。
大変なのは、答えを揃える判断のほうです。人によって違う答えを一つにまとめる作業は、一覧が出ても自動では進みません。難しくないのは、何を聞かれてきたかを集めることで、そこは今日ある記録から始められます。別のことを言っているので、矛盾はしていません。
もし今あの会社に戻れるなら、最初に手をつけるのは営業の可視化です。商談の型そのものと、話した内容をどう残すかは、商談の進め方に「型」はあるが、それだけでは成約は増えないに書きました。一度会った相手にどう戻るかは、連絡が途切れた取引先に、何から声をかければいいのかに書いています。
よくある疑問
Q. 初回の商談は何から準備すればいいですか
相手の会社を調べるより先に、自社が過去に何を聞かれてきたかを見てください。似た業種の相手に出た質問は、次も出ます。
Q. オンラインの商談でも、準備は同じですか
同じです。むしろ効きます。画面越しだと相手の表情から察しにくいぶん、想定していた質問かどうかの判断が早くなります。
Q. 想定問答をAIに作らせて、そのまま使ってよいですか
使えません。出てくるのは過去に答えた内容で、今も有効かは分かりません。何を聞かれるかの部分だけを使い、答えは人が見直してください。
Q. 商談の件数が少なくても意味がありますか
あります。十件でも、同じ質問は繰り返し出ます。件数が少ないほど、一人の記憶に頼っている度合いが高くなります。
この記事は、製造業で12年間・100人規模の会社を経営した実体験をもとに書いています。AI導入の実績を報告するものではありません。
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